15.5「ナサケモノ」 ★
「ナサケモノ」
◉ここ最近プライベートが多忙で中々時間が作れませんでしたが、いや〜この曲については本当に書きたかった。
◉と言うのも、自分がこのアルバムの中で好きな曲TOP3に入るのがこの「ナサケモノ」なんですね。
初聴きの時はイマイチピンと来なかったんですけど、聴き込む内に「ええやん」ってなるのがスピッツの曲っぽいというか。この曲には自分の好きな「ダサいスピッツ」がいるんです。
◉この曲は実はサウンドが歌詞とリンクしてる珍しい曲なのかな、と考えてます。なので、先に歌詞の方から話を。
◉歌詞について
この曲の歌詞には実は重大な矛盾があるんです。まぁ分かりやすいものなんですけど。追々。
憧れたり コケにしたり 愛おしい二文字
君の名前 つけた人は すごくセンスがいい
愛おしい二文字とは何なんでしょうかね。「君」の名前だったりとかするんでしょうか。「ナナ」とか「チカ」とか過去曲では言及されてましたし。
最初は名前かなって思ってたんですけど、今個人的には「恋愛」の二文字かなと思ってます。
例えば巷のカップルを見て、憧れたりコケにしたり反応は人によって様々だったりしますよね。
シベリア猫 ハワイの猫 同じ星見てた
「猫」は多分「君」と「僕」の比喩なのですかね。
シベリアとハワイでは気候もその他地理的にも全く違いますが、遠距離恋愛の事を暗示しているのかな。
同じ星を見る、という行為も「物理的には離れていても同じ空の下にいた(同じ気持ちでいた)」といったニュアンスに受け取れるような。
ただ、過去形なので「終わった行為」について歌っているのは間違いないです。
本能でさらに強く 伝えたい気持ちがある
これを恋というのなら 情けない獣さ
「情けない獣」=「ナサケモノ」ですね。この辺は直前の音楽雑誌でネタバレされていたので知ってはいましたが。こういう自虐的なスピッツが一番好きです。
ここで確認したいのが、「僕(便宜上、自分の視点を男性とします)」は「獣」である事です。
足にもなる メシも作る 涙はいただく
足=アッシー(死語)とかかっているんでしょうか。メシも作ったり、何処か「君」に従順な様子が窺えます。
「涙はいただく」は
①泣かせない様にする
②君を不幸にするのは宇宙でただ一人だけ(8823)
の何方でもとれますが、ここは後の歌詞の「寂しさ埋めてやる〜」の下りを見ると、①の方が繋がりが良い気がします。
ギリリとゼンマイ 巻き上げたら すぐに元気だし
ここで初めて、「アレ?」と思うわけですよ。
「僕」は「情けない獣」、つまり生き物である筈なのに、まるでロボットであるかの様に表現されている。「どっちだよ!」となる訳です。
多分、どちらでもあるんだと思います。
つまり、この曲の最大の仕掛けとは「『ロボット』が『君』と出会う事で『情けない獣』、つまり心を持った生き物になった」という展開そのものなんですね。
具体的に説明すると、「ロボットパート」がAメロ、「獣パート」がBメロとサビです。
例を挙げます。
捨てられてた 部品集め 立ち上がれるなら
これは間奏の後のAメロの歌詞です。「獣」に「部品」という表現は似つかわしくありませんし、ここは「ロボットパート」ですね。
イメージに篭らずに届けよう
これはBメロの歌詞です。「イメージ」、つまり想像する事は「ロボット」ではなく「獣」のする事です。
つまり、Bメロは「ロボットから獣への過渡期」と言えるでしょう。
ついに叶えられず 逝けてない屍さ
互いの鼻先で 古い傷跡つつき合う
そんな未来描いてた 情けない獣さ
「逝けてない屍」や「鼻先」といった表現には、「僕」が完全な生き物になった事を窺わせます。
「生ける屍」ではなく「逝けてない屍」というのは、死んでも死に切れずに未練や執着心が残り続けている「僕」を上手く表現していると思います。
恋人同士で「古い傷跡」をつつき合える、っていうのは相当仲が睦まじい証拠ですね。でも「そんな未来描いてた」、つまりそれは叶わぬ夢に終わった訳です。
やり直しに賭けてる 甘えたオンボロさ
「やり直しに賭ける」というのは「もう一度『君』やり直せないかな」という未練ですね。
「オンボロ」とは、極端に言うと「君」と離れてまた「ロボット」の様に感情を失ってしまった、と取れるかなと。
この様に、この曲はただの失恋に対する歌ではなく、次の「グリーン」にも通ずる、「君と出会った事による感情の芽生え」が裏テーマになっているのかなと考えました。
そして、この曲にはもう一段階仕掛けがあると考えています。そう、最初に説明を飛ばしたサウンド面です。
◉サウンドに関して
最初の部分でキッチンタイマーの音やFAXの音が鳴り、如何にも機械地味た曲だと敢えて序盤で印象付けるのが小憎いですね。
余談ですが、このキッチンタイマーは田村家の物で、巻いたのはマサムネだそうで。
イントロ〜Aメロまではギターは一定周期で同じフレーズ、ベースも同じ音なんですよ。ここまで読んで下さった方はもしかしたらお気付きかもしれませんが、これは「無機質なロボット」をサウンド面で上手く表現しているのかなぁと自分は思ってます。
そして、Bメロ。強めのピッキングのベースと、Aメロと打って変わって違ったフレーズを弾きだすギター。これは上でも説明した「感情の発生」の表現かなと。特に、最初のギターの音が段々上がっていく所で一気に心を持っていかれる気がします。
最後にサビで、ベースもギター両方とも自由に弾けだします。
それは正に「感情の起伏を持った獣」です。
つまり、この曲は「歌詞とサウンドが上手くリンクしている曲」なんですね。双方共に一貫したテーマを表現しているのかな、と思い出した時からもうこの曲のリピートが止まりませんでしたね。
◉アルバムの中で
次の「グリーン」はこの「ナサケモノ」の中の「感情の発生」に焦点を当てたものなのかな、と思いました。こういう所に、今回拘ったと言われる「曲順」の流れがあるのかな。
アルバムの中でも「ナサケモノ」と「ブチ」の情けなさは本当に良いですね。そういう意味で以前のスピッツらしさを感じます。という訳でお気に入りの「★」
因みに、「Na・de・Na・de ボーイ」にも「巻き巻き」というロボットのゼンマイを思わせる表現がありますね。
自分がこの曲が好きなのは、何処かあの曲に似た感じがするかもしれない。実はナデナデの続編の曲だったりするかも。