MUSICA 9月号 スピッツ感想
◉全曲解説と来たらやっぱり読むしかないでしょう。
とは言え、いつもの事ですが曲自体の解説は実質的にほぼなく、「こういった事を考慮しつつ作ってみました」という姿勢の解説みたいな感じでしたね。
◾︎「醒めない」は、まぁ散々言われてましたがオープニング曲として最後に作ったそうですね。
「任せろ!」というフレーズはスピッツっぽくないですが、「自分やファンが歌って欲しいと思っている様な曲を自分自身で歌う」という意識が今作は強めに出ていて、救いがあったり強気な曲が多いのはそういう背景があるらしいです。
◾︎「みなと」の「いつしか優しくなるユニバース」という歌詞は本当は「いつかは〜」だったそうですが、余りにも救いがないという事で修正されたそうです。
ハチ公前とは違って、「みなと」はそこから旅立ったり帰るのが難しかったり、そういった意味で特殊な場だとも言ってました。
◾︎「子グマ!子グマ!」はミュージカルを意識したかったそうです。「くまの子チャッキー」というアニメに影響されて作ったそうで。
◾︎「コメット」は20年前時代からフレーズ自体はあったらしいですね。逆に、「ガラクタ」然りそういった曲を今発表しても違和感がないのは恐ろしい。
スタッフから「喉の調子を万全にして歌ったら?」という提案をされて改めて後日録り直しした曲で、スタッフもお気に入りかもと言ってました。
「りありてぃ」の水槽の中の金魚が、実は「社会に閉じ込められた人を風刺したもの」みたいな事をチョロっと言っていて、あぁなるほどと感じました。より好きになりましたね。
◾︎「ナサケモノ」は「情けない獣」の略で、海外のアルバム曲を聴いて遊びの入った曲が欲しかったそうです。
◾︎これは「ガラクタ」もそうらしくて、別で聞いた話ですが「ガラクタ」の方はハチミツ期からアイデアあったそうですね。
◾︎「グリーン」は実は「不便な便利屋」の主題歌候補だったそうで。「火焔土器」というワードは実際に遺跡を見に行ってインスピレーションを受けたらしいです。アラフィフでこういう前のめりに色んな体験をして吸収しようとする姿勢は凄いですね。
◾︎「SJ」の転調は亀田氏提案だったそうで。歌うのもちょっとキツいと言ってたので逆にツアーが楽しみですね。
「夢の欠片は拾わない」と言った歌詞とフレーズが一緒に出てきたらしいですね。
最近の邦楽は「ずっと」とか「愛してる」とか曖昧でフワッとしたフレーズが多く、そういったものに反発する気持ちもあったそうです。
マサムネはサビから作るタイプの作曲家で、この辺の話は「ただ春を待つ」の作曲時の話とデジャヴを感じました。
◾︎「モニャモニャ」はアルバムジャケットキャラのイメージ曲として。「子グマ!子グマ!」の「逃げろよ〜」の所は実はモニャモニャなんだ、という風なストーリーの持っていき方をしたかったらしいです。
◾︎「ハチの針」は偶に暇潰しに弾いていたフレーズから広げて作った曲で、Aメロではその同じ一つのフレーズで進むものの、やっぱり歌謡曲っぽいサビを作らないとスッキリしなかったそうです。
デスメタルとかではなくても、例えばこういう歌謡曲っぽい曲に「地獄」とか「バカ」とかいう歌詞が入っていても良いのでは、と言っていました。
「バカにもわかるように導かれる」という歌詞がオススメなようです。
◾︎「ヒビスクス」はインタビューアーの鹿野さんが「平和の歌?」と聞いて「そうですか?そういう解釈も出来るかもしれませんね」といった反応をしていたので、マサムネはそういう意図を持って書いた訳ではなさそうです。
ミュージカルっぽくしたい、とか紆余曲折あったらしいですが、結局coldplayっぽいイントロに落ち着きましたね。
◾︎「ブチ」は元々ゴースカのlive向けに作った曲なのでセルフプロデュースなのだそうです。
海外のオーディション番組で火傷を負った女の子がそれを意に介さず勝ち上がっているのを見て、「ブチ」なども見方を変えれば魅力と捉えられるのではと思ったそうです。やっぱり色々体験豊富で吸収力が凄いすね。
ベルゲン盤についてくるCDのLIVEverだと「奇跡は起こるかも」ではなく、「奇跡は起こらない」のままなんですが、「みなと」と同様救いがなさ過ぎるとの事で変更。
◾︎「雪風」はサビのフレーズから入って、そのフレーズはかなりお気に入りみたいですね。
昔は「俺が!俺が!(初期の曲は特にそうですね)」みたいな歌詞の作りだったのですが、今はこういった「見送る人の目線」の曲を聴きたいし書いた方が良いのかな、という事を話してました。
◾︎「こんにちは」はオチとして。シンプルなバンドサウンドで「醒めない」以上に原点の曲として拘った結果、余計な音を入れないセルフプロデュースに落ち着いたそうです。
こんな感じのパンキッシュな曲が好きらしいので、これからもっともっと聴きたいですね。
◉「小さな生き物」とセットなのかな、と個人的には思ってたのですが、やっぱり後語りを見るとそうだったっぽいです。
確かに前作が「主人公が立ち上がるまでのアルバム」だったのに対して、今作は前を向き歩き始める「決意」や「救い」のある曲が多いですね。
◉眠くて雑な文章しか書けてないです。事実誤認がもしありましたら宜しければお教え下さい。
15.5「ナサケモノ」 ★
「ナサケモノ」
◉ここ最近プライベートが多忙で中々時間が作れませんでしたが、いや〜この曲については本当に書きたかった。
◉と言うのも、自分がこのアルバムの中で好きな曲TOP3に入るのがこの「ナサケモノ」なんですね。
初聴きの時はイマイチピンと来なかったんですけど、聴き込む内に「ええやん」ってなるのがスピッツの曲っぽいというか。この曲には自分の好きな「ダサいスピッツ」がいるんです。
◉この曲は実はサウンドが歌詞とリンクしてる珍しい曲なのかな、と考えてます。なので、先に歌詞の方から話を。
◉歌詞について
この曲の歌詞には実は重大な矛盾があるんです。まぁ分かりやすいものなんですけど。追々。
憧れたり コケにしたり 愛おしい二文字
君の名前 つけた人は すごくセンスがいい
愛おしい二文字とは何なんでしょうかね。「君」の名前だったりとかするんでしょうか。「ナナ」とか「チカ」とか過去曲では言及されてましたし。
最初は名前かなって思ってたんですけど、今個人的には「恋愛」の二文字かなと思ってます。
例えば巷のカップルを見て、憧れたりコケにしたり反応は人によって様々だったりしますよね。
シベリア猫 ハワイの猫 同じ星見てた
「猫」は多分「君」と「僕」の比喩なのですかね。
シベリアとハワイでは気候もその他地理的にも全く違いますが、遠距離恋愛の事を暗示しているのかな。
同じ星を見る、という行為も「物理的には離れていても同じ空の下にいた(同じ気持ちでいた)」といったニュアンスに受け取れるような。
ただ、過去形なので「終わった行為」について歌っているのは間違いないです。
本能でさらに強く 伝えたい気持ちがある
これを恋というのなら 情けない獣さ
「情けない獣」=「ナサケモノ」ですね。この辺は直前の音楽雑誌でネタバレされていたので知ってはいましたが。こういう自虐的なスピッツが一番好きです。
ここで確認したいのが、「僕(便宜上、自分の視点を男性とします)」は「獣」である事です。
足にもなる メシも作る 涙はいただく
足=アッシー(死語)とかかっているんでしょうか。メシも作ったり、何処か「君」に従順な様子が窺えます。
「涙はいただく」は
①泣かせない様にする
②君を不幸にするのは宇宙でただ一人だけ(8823)
の何方でもとれますが、ここは後の歌詞の「寂しさ埋めてやる〜」の下りを見ると、①の方が繋がりが良い気がします。
ギリリとゼンマイ 巻き上げたら すぐに元気だし
ここで初めて、「アレ?」と思うわけですよ。
「僕」は「情けない獣」、つまり生き物である筈なのに、まるでロボットであるかの様に表現されている。「どっちだよ!」となる訳です。
多分、どちらでもあるんだと思います。
つまり、この曲の最大の仕掛けとは「『ロボット』が『君』と出会う事で『情けない獣』、つまり心を持った生き物になった」という展開そのものなんですね。
具体的に説明すると、「ロボットパート」がAメロ、「獣パート」がBメロとサビです。
例を挙げます。
捨てられてた 部品集め 立ち上がれるなら
これは間奏の後のAメロの歌詞です。「獣」に「部品」という表現は似つかわしくありませんし、ここは「ロボットパート」ですね。
イメージに篭らずに届けよう
これはBメロの歌詞です。「イメージ」、つまり想像する事は「ロボット」ではなく「獣」のする事です。
つまり、Bメロは「ロボットから獣への過渡期」と言えるでしょう。
ついに叶えられず 逝けてない屍さ
互いの鼻先で 古い傷跡つつき合う
そんな未来描いてた 情けない獣さ
「逝けてない屍」や「鼻先」といった表現には、「僕」が完全な生き物になった事を窺わせます。
「生ける屍」ではなく「逝けてない屍」というのは、死んでも死に切れずに未練や執着心が残り続けている「僕」を上手く表現していると思います。
恋人同士で「古い傷跡」をつつき合える、っていうのは相当仲が睦まじい証拠ですね。でも「そんな未来描いてた」、つまりそれは叶わぬ夢に終わった訳です。
やり直しに賭けてる 甘えたオンボロさ
「やり直しに賭ける」というのは「もう一度『君』やり直せないかな」という未練ですね。
「オンボロ」とは、極端に言うと「君」と離れてまた「ロボット」の様に感情を失ってしまった、と取れるかなと。
この様に、この曲はただの失恋に対する歌ではなく、次の「グリーン」にも通ずる、「君と出会った事による感情の芽生え」が裏テーマになっているのかなと考えました。
そして、この曲にはもう一段階仕掛けがあると考えています。そう、最初に説明を飛ばしたサウンド面です。
◉サウンドに関して
最初の部分でキッチンタイマーの音やFAXの音が鳴り、如何にも機械地味た曲だと敢えて序盤で印象付けるのが小憎いですね。
余談ですが、このキッチンタイマーは田村家の物で、巻いたのはマサムネだそうで。
イントロ〜Aメロまではギターは一定周期で同じフレーズ、ベースも同じ音なんですよ。ここまで読んで下さった方はもしかしたらお気付きかもしれませんが、これは「無機質なロボット」をサウンド面で上手く表現しているのかなぁと自分は思ってます。
そして、Bメロ。強めのピッキングのベースと、Aメロと打って変わって違ったフレーズを弾きだすギター。これは上でも説明した「感情の発生」の表現かなと。特に、最初のギターの音が段々上がっていく所で一気に心を持っていかれる気がします。
最後にサビで、ベースもギター両方とも自由に弾けだします。
それは正に「感情の起伏を持った獣」です。
つまり、この曲は「歌詞とサウンドが上手くリンクしている曲」なんですね。双方共に一貫したテーマを表現しているのかな、と思い出した時からもうこの曲のリピートが止まりませんでしたね。
◉アルバムの中で
次の「グリーン」はこの「ナサケモノ」の中の「感情の発生」に焦点を当てたものなのかな、と思いました。こういう所に、今回拘ったと言われる「曲順」の流れがあるのかな。
アルバムの中でも「ナサケモノ」と「ブチ」の情けなさは本当に良いですね。そういう意味で以前のスピッツらしさを感じます。という訳でお気に入りの「★」
因みに、「Na・de・Na・de ボーイ」にも「巻き巻き」というロボットのゼンマイを思わせる表現がありますね。
自分がこの曲が好きなのは、何処かあの曲に似た感じがするかもしれない。実はナデナデの続編の曲だったりするかも。
15.4「コメット」
★コメット
◉この曲はドラマ「HOPE」の主題歌にもなりましたね。色んな場所でチラホラ見かける限りだと、今回のアルバムはこれと「ヒビスクス」が大変人気が高いようです。
◉TVで初めて聴いた時はイントロにスピッツらしさを感じなかったので違和感を覚えましたが、アルバムに収録されると流れよく聴けるので良いですね。
◉サウンドに関しては、この曲のほぼメインと言っても差し支えないピアノがイントロ・サビ・Cメロ・アウトロで活きてますね。サビとアウトロのピアノが好きです。イントロのドラムのクラッシュも、大サビへの入り方も良い。
でも特に好きなのはやはり一番と二番の間のギターですね。雰囲気出てますよ。
◉歌詞
誰でもいいよと生き餌を探して
迷路の街角で君に会った
黄色い金魚のままでいられたけど
恋するついでに人になった
生き餌を探す、というのは良い表現ですね。「生き餌」=「生きている人間」でしょうか。「自分の中に吸収して栄養に出来る人」に飢えているのでしょうか。
金魚って結構凶暴なイメージがあって、共食いとか平気でするらしいですね。そういう意味での比喩なんでしょうか。
でもあくまで小さい魚である「金魚」ってのがスピッツらしい。
押し寄せる人波に 流されないように
これは、「水の波」と「人波」がかかってるのかな?
「ありがとう」って言うから 心が砕けて
新しい言葉探してる
見えなくなるまで 手を振り続けて
また会うための生き物に
ここで重要なのは「ありがとう」という言葉で「心が砕ける」とは何なのか。良い意味にも悪い意味にも取れそうです。
前者は「心を開く」とか「感動する」とか。後者は「衝撃を受ける」とか「悲しみに暮れる」とかでしょうか。
「恋愛の初期衝動」を歌ってるのか、「失恋」を歌ってるのか……。
自分は後者で取りました。
理由としては二点あります。
まず、「ありがとう」は何に対して放った言葉なのか。
この言葉、単なる感謝の意味だけじゃなく、丁重に断る時の言葉にも使いますよね。要らぬ世話を焼いた時とか告白をした時とかに、「ありがとう、でも〜」とか。
つまり「ありがとう」は「僕の告白」に対しての丁寧なお断りの言葉なのではないかと考えたのです。だから「心が砕ける」し、言葉に詰まって「新しい言葉を探してる」。
次に、後の
明日は来るかな ゴムボールが愛しい
転がってどこへ 追いかけて
という部分。もしこの曲が明るい歌詞だったら「明日は来るかな」という表現はしないと思うんですよね。
そして「砕ける心」と「ゴムボール」の対比。「エスペランサ」でも出てきましたが、「ガラス玉」や「心」っていうのはすぐ砕けてしまうんですよね。だからこそ、簡単に砕けない「ゴムボール」が愛しいのかな、と。
「さよなら」ってやだね 終わらなきゃいいのに
優しいものから離れてく
この辺もそれを主張してるのかなって思います。「ありがとう」も「さよなら」も別れの言葉として使われていて、優しい「君」から離れていく。
見えなくなるまで 手を振り続けて
また会うための生き物に
この「また会うための生き物」には「人間」として「また会いたい」という願望が含まれている気がします。
だからこそ、そういう期待も込めて「手を振り続けている」。結局フラれても「君」が好きなんですね。
◉アルバムの中で
個人的には「子グマ!子グマ!」〜「ナサケモノ」はワンセットかな、って思ってます。
イメージ的には「子グマ!子グマ!」も「コメット」も何処か強がってカッコつけてる感じがするんですけど、次の「ナサケモノ」はやっと素直に本心を吐露している気がします。
15.3 「子グマ!子グマ!」
★「子グマ!子グマ!」
◉この曲を最初に聴いた時は正直ビックリしました。現代のバンドのサウンドをスピッツ流にアレンジしたらこんな感じなのではないかな、と。
あまり詳しくはないのですが、Aメロのギターのフレーズとかは「ゲスの極み乙女」っぽいかなとか思ったり。
◉この曲の雰囲気を決めてるのは、やはりドラムでしょう。Aメロでの弾みのあるスネア打ち、サビでの裏打ち、Cメロの合唱へのゆったりとしたリズム変化、全ての展開をドラムが作り出しています。
ベースも相変わらず低く唸り、ギターはお洒落な感じですね。イントロのギターと、ギターソロの後ろで高く細くなっているギターの音がアクセントがついてて好きです。今回のアルバム、個々の楽器の音作りと展開が本当に素晴らしい。
AメロはCzecho No Republicのタカハシマイさんがコーラスに参加。素直に「合ってるな」と思いました。この辺のセンスも現代っぽい。
◉曲名発表の時にまず一番話題になったのはこの曲でしょう!アラフィフのオジサンが「子グマ!子グマ!」とは何とも言えませんねw(マサムネ自身もそのダサさが良いと思ってるようですが)
はぐれたら 二度と会えない覚悟は
つらいけど 頭の片隅にいた
この辺でもう、「君」とは離別してしまったorそうなる運命なのかな、というイメージが湧きます。
半分こにした 白い熱い中華まん 頬張る顔が好き
「醒めない」、「みなと」とストレートな歌詞が続いたので、この言葉遊びを聴いて初めて安心しました。まぁこの後「ハチの針」というトンデモ曲が襲来するのですがw
頬張る顔が好き、ってのは可愛い表現だなと思いました。素直に「君」を可愛く思ってるんだなと分かります。
喜びの温度はまだ 心にあるから
君が駆け出す時 笑っていられそう
この辺で、「あぁやっぱり君とは離れ離れになってしまうんだな」という事が分かります。
「笑っていられそう」というフレーズは「笑っていられる」というフレーズと意味合いが全然違っています。
「僕」の、「ダメかもしれないけれど、無理してでも空元気でも笑っていたい」という、どうしようもない願いが顕になっているわけです。
トロフィーなど いらないからこっそり褒めて
それだけで あと90年は生きられる
この表現で、「僕」が如何に「君」の事が大好きで依存しているか分かります。
また、人間の平均寿命は男性が80歳前後で女性が87歳前後ですから、「あと90年は生きられる」という部分には、人間の生の限界を越えるほど「君」に認められる事が嬉しいという「僕」の一途さ、危うさが見て取れます。
「僕の分身」とはやっぱり「子グマ」の事なのかな?「子グマ」がやっぱり何の比喩なのかは気になるところです。
間違ったっていいのにほら こだわりが過ぎて
君がコケないように 僕は祈るのだ
「君」と「僕」は上手くいかずに離れ離れになってしまうのかな?それでも「僕」は離れていく「君」の幸せを祈り続けます。
惜しかった思い出も 感動的に刻むから
君が遠くなっても 笑っていられそう 強がっていられそう
やっぱりこの辺は「僕」の希望的観測が入っていますね。多分この「僕」は笑えも強がれもしないで結局普通に泣き噦ると思います。
さて、この曲の肝である「子グマ」が何の比喩であるかを考えます。
「小グマ持ちの親グマ」の人はこの曲は家族愛の歌と解釈している人が多い印象があります。「親離れしていく子供」の歌ですね。
ですが、子グマ持ちではない僕はこの解釈を聴いた時に「そういう見方もあったのか」と驚きました。確かに今は親離れの歌とストレートに受け取るのが自然だったなと思ってます。
自分は最初に、「子グマ」は「君との時間を幸せに感じていた、精神的に幼かった頃の自分」なのかなと思っていました。つまり、これも恋人への歌、失恋の歌なのかなと。
「君」と未来を語り合った時間の事であり、「僕の分身」はそのまま「過去の自分」なのかなと捉えました。「幸せだった頃の過去の自分との離別」って感じです。
子グマ!子グマ!荒野の子グマ
おいでおいでするやつ 構わず走れ
子グマ!子グマ!逃げろよ子グマ
暗闇抜けて もう少しだ
過去の自分に対して今の自分が未練たらしく声援を送ってるワケです。「お前はこういう風になるなよ、逃げきれよ」と。
ですがそれも虚しく現実に戻ると、「君」は離れていくし「僕」も強がるしかできないと。
と、今まで悲しい歌風に捉えてきましたが、勿論「これから前を向いていける」という明るい歌にも受けとれるかもしれないですね。
◉アルバムの中で
シンプルで美メロな「みなと」からイキナリ始まるオシャレソングに一気に引き込まれます。
確かテツヤは「三曲目はヒビスクスが良い」と主張して却下されたんでしたっけ?僕はやっぱり「ヒビスクス」はあの位置かなって思いますw
自分はやっぱり最初に聴いた時の様にコメットへと続く「失恋の歌」なのかな?と。多少解釈が無理やりな所もあるとは思いますが。
★好きなフレーズ
「半分こにした 白い熱い中華まん 頬張る顔が好き」
15.2 「みなと」
★「みなと」
◉この曲のシングルはアルバムの三ヶ月前という直近で出たものなので、もしかしたら買ってないって人も多いかもしれないですね。
◉サウンドに関しては、「醒めない」よりも歪んだベースに、終始美しく鳴り響くテツヤギター、マサムネのグレッチのアコギ風のギターが絡んで幻想的な情景を想起させます。
名曲「魚」のように、雰囲気作りが素晴らしく世界観に一気に引き込まれます。
間奏の口笛も情緒を誘いますね。アウトロのギターのディレイのエフェクトも好きです。
◉「醒めない」に引き続き比較的ストレートな歌詞。今回のアルバムでは、「メッセージ性の強い曲」を意図的に先行してメディア露出させている気がします。「雪風」然り。
船に乗るわけじゃなく だけど僕は港にいる
「船に乗らない人」が敢えて港にいる理由。これは「誰かの旅立ちを見送る」「誰かの帰りを待つ」などでしょうか。
遠くに旅立った君に 届けたい言葉集めて
死別や離別……どちらも考えられますが、どうやら「君」には会いたくても中々会えないようです。
汚れてる野良猫にも いつしか優しくなるユニバース
黄昏にあの日二人で 眺めた謎の光思い出す
君ともう一度会うために作った歌さ
今日も歌う 錆びた港で
「君」に会えるかは分からないけれども、只管帰りを信じて歌っている。「ユニバース」が「野良猫」にいつしか優しくなるように、そんな「奇跡」を願って思い出を反芻しながら待っているのかもしれません。
勇気が出ない時もあり そして僕は港にいる
消えそうな綿雲の意味を 考える
遠くに旅立った君の 証拠も徐々にぼやけ始めて
目を閉じてゼロから百まで やり直す
「消えそうな綿雲」は、「君」との思い出でしょうか。或いはそして、その思い出が徐々にぼやけ始めるほど長く待ち続けている、という事かもしれません。
そして、目を閉じて最初から思い出を反芻してまた「君」を忘れないように思い出す。
因みに綿雲は「春」の雲らしいですね。冬の「雪風」とはこういう意味でも繋がりがありそうです。
すれ違う微笑たち 己もああなれると信じてた
朝焼けがちゃちな二人を染めてた あくびして走り出す
君ともう一度会うための大事な歌さ
今日も歌う 一人港で
「すれ違う微笑み」とは家族でしょうか、恋人達でしょうか。何れにせよ「君」と「僕」はそういう幸せでありふれた関係になれなかった事が示唆されます。
そして、「二人」でいた時の思い出を反芻しながら「一人」で歌い続ける。対の表現ですね。
二番のサビ前のドラムのシンバルからの入りが好きです。
今日も歌う 錆びた港で 港で 港で
スピッツの楽曲の中でこれほど同じワードが繰り返し歌われた事はないでしょう。余程重要なワードなのですね。
港は「僕」が帰りを待つ「家」や「故郷」、或いは「君と僕が一緒にいる状態」そのものを例えているのかもしれません。
「君」という存在に「僕」がどれほど依存し溺れていたか、という事がよく分かります。一途に「君」の帰りを献身的に待ち続ける。忠犬ハチ公みたいなイメージを持っています。
◉アルバムの中で
今アルバムのシングル曲は、この「みなと」と配信シングルの「雪風」となっていますが、個人的にこの二曲は対になっていると考えます。曲順もそうですし。
前者は「遠くへ旅立ってしまった人への歌」、後者は「遠くへ旅立った人からの歌」として。
アルバムの中の曲として捉えるなら、「ナサケモノ」や「コメット」辺りとの繋がりを考えるとやはり「恋人への歌」が自然なのかなと思います。
そして、前々の記事で示したように、この曲が真のオープニングトラックであると考えています。
「遠くへ旅立った君に届けたい歌」とは、「子グマ!子グマ!」から「ブチ」の事ではないかなと。
この「届けたい歌」を聴いていく事で、「僕」がどういう人間なのか、どう思っているのかが分かっていく仕組みになっているのかな、と考えました。
◉好きなフレーズ
「すれ違う微笑たち 己もああなれると信じてた」
15.1「醒めない」
★「醒めない」
◉記念すべきタイトルトラックですね。この曲だけは、やはり今作のアルバムの中でも異質の存在だと思う。
マサムネが「ここ最近ゆったり目の一曲目が続いたので明るめの曲を作った」「オープニングの曲として最後に作った」と発言した通り、正に初っ端の曲に相応しい名曲です。
◉サウンド面で活躍してるのは特にベースとドラムのリズム隊。ゴリゴリのベースに軽快にモータウンビートを刻むドラムは勢いがあり、今までになかった感じじゃないですかね。
ベースの入りのスライドには一気に心を持っていかれる気がします。Aメロのベースがうねらないのが良いですね。真っ直ぐなサウンドって気がします。
今回はアルバムを通じてリズム隊の活躍が光ります。特にドラム。
それに反してテツヤのギターの音作りはかなり柔らかく作っており、それが相乗効果を生み出しています。
最初聴いた時は正直「クリスマスソングっぽいな」と思いました。
◉歌詞。かなりストレートでメッセージ性があると思います。
昼の光を避けて ブサイクな俺の歴史上
ギターはアンドロジナス 氷を溶かしてく
これはインディーズの頃の話ですかね。丁度この曲作りの前後にあのボウイの訃報が届き、「アンドロジナス」と言うのはそこから来た部分もあるそう。「アンドロジナス」は「性の差異を超えて自由に考え行動しようという考え方」という意味があるらしいので、ロック、延いては音楽は自由だという考え方があるのでしょうね。
まだまだ醒めない アタマん中で ロック大陸の物語が
最初ガーンとなったあのメモリーに 今も温められてる
さらに育てるつもり
これはブルーハーツを聴いた時の衝撃も含んでいそうです。スピッツの前身バンドは活動休止になっていますし。
ですが、音楽に限らず誰にでも何かしらに対して「初めての衝撃」はあったと思います。初心を忘れない、という意味にも取れそうです。
任せろ 醒めないままで君に 切なくて楽しい時をあげたい
もっと膜の外へ なんか未知の色探して
さらに解き明かすつもり
二番はスピッツからのメッセージソングとして取れそうです。「切なくて楽しい時」とは今作の他の楽曲、及びこれまでとこれから生み出されるであろう楽曲の事ですかね。
「さらに解き明かすつもり」と言われるのは、ファンとしては嬉しい限りです。
見知らぬ人が大切な人になり
相性悪い占いも余計に盛り上がる秘密の実
「見知らぬ人とが大切な人になり」は今作のテーマだと思います。今作のテーマはズバリ、草野さんの言っていた「死と再生」を転じて「邂逅と離別」に尽きるかなと。
「君や色んなものに出逢って初めての感情に出逢う」、そして「いつかは離れる時が来る」。
前者は「ガラクタ」「グリーン」、後者は「雪風」などがそれを示しているかな。
ですが、ただ「離別」するだけで終わらず、前を向いて歩みを進めるのが今作だと思います。この辺は後々。
相性悪い占いも余計に盛り上がる秘密の実
スピッツの天邪鬼な面が良く出てると思います。「恋は障害があるほど燃え上がる」とは言われますが、恋に限らずそんな感じかな?
◉アルバムの中で
この「醒めない」は比較的ストレートな歌詞なのもあり、あまり難解な点はありませんがそれだけに強いメッセージ性を持った曲でしょう。前々作前作の一曲目の「ビギナー」や「未来コオロギ」と似たものを感じます。
また、上で示したようにこのアルバムのテーマを示す重要なオープニングテーマと言えるでしょう。
そして、この曲のもう一つの側面としては、最後「こんにちは」の後に再び戻ってこられる事がありますがこれも追々。
◉好きなフレーズ
「ギターはアンドロジナス 氷を溶かしてく」
15.0 アルバム「醒めない」を考える前に
◉「醒めない」を各曲ある程度聴き込んだので、これから考察に入ろうかなと思います。
◉が、その前に、前提としてこの考察には「筆者の想像」が多く含有されます。。こじつけっぽい所も多々あるかと思います。
コンセプトとかストーリーがあるアルバムが好きなので、その方面に振り切れてるかもしれませんがご了承下さい。
「こういう考え方もある」という感じで気楽に構えてくれれば良いと思います。
◉個々の楽曲を見ていく前に、まず前提として自分がどういう風に今作全体を捉えたのかを示しておきますね。
◾︎自分はこのアルバムは大きく三つに分けられるのかな、と考えました。具体的には
★醒めない
◎みなと
▼子グマ!子グマ!
▼コメット
▼ナサケモノ
▼グリーン
▼SJ
▼ハチの針
▼モニャモニャ
▼ガラクタ
〓ヒビスクス
〓ブチ
◎雪風
◎こんにちは
という感じ。
大きな構造的には、「みなと」と「雪風」「こんにちは」が中盤の曲を挟み、主題歌として初めにタイトルトラック「醒めない」がある感じ。
◾︎このアルバムには四つの流れがあります。内側から①,②,③,④とすると、
①「子グマ!子グマ!」で始まり、「ガラクタ」で終わる流れ。
② ①の締め括りとして「ヒビスクス」、エンドロールに「ブチ」という流れ。
③オープニングの「みなと」で始まり、①,②を経てエンドロールの「雪風」で終わり、エピローグの「こんにちは」で終わる流れ。
④オープニングの「醒めない」で始まるアルバム全体の流れ。これにはエンドロールはありませんが、或いは逆に、「醒めない」自身がエンドロール曲を兼ねていると言えるかもしれません。
②が①を内包し、③が②を内包している感じです。
◾︎何故こう考えたのは個々の楽曲に触れつつ後々小出しに説明するとして、上記の様な構造として捉えたという前提の上でこれから考察を進めていきたいと思います。
※アルバムの中で今好きなのは上から
1,ブチ
2,ナサケモノ
3,ハチの針
4,醒めない
5,こんにちは